阪南大学 中西正行 教授〈借金も金融リテラシーの一歩?若者に必要なお金の判断力〉

阪南大学 経済学部 経済学科 中西正行教授に独占インタビュー

近年、「カードローン」や「キャッシング」といった言葉をSNSや広告で目にする機会が増え、学生や若者の間でも“借金”がより身近な存在になりつつあります。

一方で、学校教育では「貯金」や「投資」は教えても、「借金」や「ローン」の仕組みやリスクについて十分に学ぶ機会が少ないのが現状です。

実際に借り入れをする際、金利や返済計画を理解せずに利用してしまうことで、将来的に後悔するケースも少なくありません。

では、若者が“お金を借りる”という選択肢と正しく向き合うためには、どんな知識や判断力が必要なのでしょうか?

そこで今回は、韓国経済に詳しく、金融教育にも力を注いでいる中西教授に、借金との向き合い方や、金融リテラシーを育てるための教育のあり方についてお話を伺いました。後悔しないお金の選択ができるようになるためのヒントを、中西教授のお話から探っていきましょう。

インタビュイーの紹介
阪南大学 経済学部 経済学科 中西正行教授

阪南大学 経済学部 経済学科
中西正行(ナカニシマサユキ) 教授

大阪府出身、大阪市立大学大学院 経営学研究科 後期博士課程 単位修得退学。証券会社、銀行、上場メーカー、外資系金融機関にて勤務。
金融論や韓国経済論を研究。金融実務やキャリア形成に関する教育・研究に尽力する専門家。

〈研究分野〉
金融論・証券市場論・経営財務論・韓国経済論

〈主要業績〉
「韓国財閥の株式所有構造の変化」『経営研究』第50巻、第1・2号、1999年7月
共著『就職・キャリア形成ガイドブック-キャリアデザイン・インターンシップ・スキルアップ-』中央経済社、2008年1月
「韓国の中小企業金融の現状と課題—預貸率規制が中小企業に及ぼす影響—」『日本中小企業・ベンチャービジネスコンソーシアム年報』第13号、2015年3月
「アジア通貨金融危機以降の韓国財閥の株式所有構造―三星財閥の事例を中心に―」『阪南論集』第60号第2号、2024年10月
共著『新中小企業論』文真堂、2021年6月

目次

金融教育で「借金」をどう教える?─カードローンとの向き合い方

カードローンの窓口合同会社 編集部:それではまず、金融教育の中で「借金」についてどうお考えかお聞きしたいと思います。

学校では投資や貯金についてはよく教えられますが、借金やローンについてはあまり触れられていない印象があります。中西教授はこれについてどのようにお考えですか?

中西教授:基本的には「できるだけ借金はしない方が良い」と伝えています。ただし、借金をしなければならない場面もあります。

たとえば学生の場合、奨学金や車のローンなどは身近な例ですね。そういった「やむを得ない借金」は存在することを知っておくことが大切です。

大切なのは、その仕組みを理解して借りることです。よくわからないまま借金するのは絶対にダメだと伝えています。このあとでも出てきますが、まずは金融リテラシー(お金の知識)をしっかり身につけてから、借金やローンについて考えるようにしましょうと教えています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。最近では、特に若者や学生の間でカードローンやキャッシングを利用する人が増えているように感じます。このような背景には、どんな社会的な要因があるとお考えですか?

中西教授:私は韓国経済を専門にしていますが、韓国では日本以上にクレジットカードの利用が広く普及しています。

特に2002年から2004年ごろにかけて、クレジットカードの利用が急増し、多くの人が多重債務に陥りました。この状況は「カードローン地獄」とも呼ばれ、無理な貸し出しを続けていたカードローン会社が次々に倒産するなど、大きな社会問題となりました。

この背景には、「カードで消費を拡大させよう」という商業主義的な考え方がありました。現在の日本でも、PayPayのようなキャッシュレス決済が急速に普及しつつありますが、これもまた、消費を刺激するための商業的な戦略の一環だと感じています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:たとえば、学生はどういった理由でカードローンを利用されるとお考えでしょうか?

中西教授:これはなかなか一概には言えませんし、明確なデータがあるわけでもありません。ただ、私の経験上、生活に困窮してカードローンを利用する学生は、実はそれほど多くないように思います。

多くの場合、衝動的に「欲しい」と思ったものを購入してしまう、いわゆる刹那的な消費行動が見られますね。ただし、何を買いたいのか、その優先順位は明確に持っている。

たとえば、ファッションやメイク、アクセサリーなど、自分の経済状況には見合わない高額なものを購入する学生もいます。そういうときこそ、「生活の中で本当に必要なものは何か」を考えるべきです。

お金が足りないなら、生活の質を一時的に落とす選択も必要でしょう。そういった金銭感覚については、学生にも日頃から指導しています。

一番身近な例を挙げると、学生や若い人たちはコンビニを頻繁に利用しますよね。ちょっとした用事でも、まるで習慣のように足を運んでしまう。

そうした日常的な出費の積み重ねが、気づかないうちに金銭感覚を狂わせて、カードローンに手を出してしまうケースも少なくありません。その点には、特に注意を促すようにしています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:確かに、欲しいものがすぐ手に入る環境にいると、つい買ってしまいますよね。コンビニも便利ですが、習慣化してしまいやすい印象があります。

中西教授:「アホちゃうか」と思ったエピソードがあるんです。ゼミを卒業した学生で、今でも仲のいい子がいるんですが、あるとき、その子の家に泊まりに行ったんですよ。

朝になって、彼が近所のコンビニに行って、セブンイレブンのコーヒーを買ってきて飲んでいたんですね。でも、彼の家にはちゃんとコーヒーメーカーがあるんです。

まさに、そういうところなんですよ。コンビニに立ち寄って缶コーヒーを買うのが、完全に習慣になっている。コーヒーが好きなら、タンブラーに淹れて家から持ってくるとか、せめて業務スーパーでまとめ買いをするとか、もっと工夫のしようがあるはずです。

それと同じで、若い子ってスーパーに行ったときに、何も考えずにレジ袋を買ってしまうことが多いですよね。ああいう小さな支出も、積み重ねれば馬鹿にできません。もう少し「金融脳」で考えてほしいんです。

お金の使い方を、単なる目先の出費としてではなく、生活全体のサイクルの中で捉える。そういう“マネーライフサイクル”的な視点を、学生たちにはしっかりと持たせるように、日頃から厳しく伝えています。

利息と金融感覚─「借りる力」がある人・ない人の違い

カードローンの窓口合同会社 編集部:先ほどのお話に関連して、金利や利息といった金融の基本概念を、学生さんに理解させるために、どのような工夫をされているのか詳しくお伺いできますか?

中西教授:金融リテラシーの授業やインタビューなどで、私がよく取り上げる具体例のひとつが「ATMの手数料」です。学生もよく銀行に行って、100円ほどの手数料を払ってお金を引き出しますよね。でも、この「たかが100円」は、実は非常に大きな意味を持っています。

たとえば1万円を引き出すのに100円の手数料を支払った場合、単純に「100分の1」で済ませるのではなく、それを“1日あたりの金利”と見なして年間換算で考えさせます。そうすると「これを年利にしたらどれだけの金利を払っていることになるのか」と驚くわけです。

こんなに銀行に利益を出してどうするの?というリアクションになる。そこから金利の感覚を掴んでもらうようにしています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:まさに「実感を持たせる教育」ですね。実際に計算してみることで、数字が身近になってくる。

中西教授:そうなんです。さらに、私の研究室では「株式勉強会」を開いていて、そこに学生がプライベートで参加してくれています。面白いことに、「どれくらい利益を出したい?」と聞くと、「100万円儲けたいです」と金額で答える学生が多いんです。

でも、それはナンセンスです。大事なのは「元手はいくらか」「何%の運用利回りを目指すのか」というパーセンテージの考え方です。

実際、以前そのように答えた学生が、1年間しっかり勉強を重ねた結果、あるタイミングで株価が大きく動いた時に「年間で5〜8%稼ぐのが精一杯」と自ら気づいたんです。そして、「あのとき先生に言った“100万円稼ぎたい”なんて発言が本当に恥ずかしい」と口にしていました。

つまり、ATMの100円の出費ひとつをとっても、それを運用で取り戻すために、どれだけの努力や知識、手法が必要になるのかを学生に体感させる。そこから、「お金を借りる」という行為に対する考え方も自然と変わってきます。

カードローンの窓口合同会社 編集部:確かに、そうした考え方は学生さんにとって非常に重要ですね。金利や利息といった概念が、曖昧なままの方も多い印象があります。

中西教授:ええ、正直言って、ほとんど分かっていないと思います。お金を「借りる」「貯める」「運用する」といった基本的な行動も、まだまだ感覚的に理解できていない学生が多いです。

たとえば、株式勉強会に参加した学生には、まず「5万円を貯めること」から始めさせています。そして、5万円貯まったら「日経平均のETFを買ってみよう」と提案します。でも、そこにたどり着くまでには、まず日常の無駄な出費を見直す必要がある。

コンビニでの買い物を控える。ATMでの手数料を払わない。レジ袋を買わない。そういった行動から「貯める力」が養われていきます。

そして、それだけ節約してお金を貯めているのに、簡単に借金をしてしまうのはどうなのか?という話につながっていきます。お金を借りるということには「借り賃」、つまり利息が発生します。株式を信用取引で借りた場合に高い金利を支払う必要があることもある。

金利には、単利だけではなく複利もあります。そういうことを知ると、借金の重さも実感として分かってくるんですよね。もう「簡単に借りていいや」とは思えなくなるんです。

たとえば「リボ払い」も、金融リテラシーの中ではやや高度なテーマになりますが、非常に重要なポイントです。リボ払いというのは、カード会社が考え出した非常に巧妙な仕組みだと私は思っています。

一見すると、毎月の支払額が一定なので「払えている」という錯覚に陥りやすい。実際には、残高がなかなか減らず、長期間にわたって高い金利を払い続けることになるんです。でも、そういった仕組みを学生はあまり理解していないのが現状です。

つまり、カード会社の戦略にまんまとハマってしまっているわけです。こうしたことも含めて、リボ払いの本質やリスクについては、学生にしっかりと伝えるようにしています。

ゼミでは、先ほど触れたコンビニの缶コーヒーやスーパーのレジ袋といった身近な支出を題材に、「これは金利に置き換えたらどれくらいになるか」と考えさせています。日々のちょっとした出費を金利的な視点で捉え直す訓練をすると、金融の感覚が学生にも根づいてくると感じます。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。実際に自分で計算してみると、金利の意味や重みを肌感覚で理解できるようになりますよね。

少し観点を変えてお伺いしますが、実際に借金やローンを経験した学生と、そうでない学生とでは、金融に対する感覚に違いが生じるとお感じになりますか?

中西教授:ええ、ありますね。たとえば、奨学金を借りている学生は、やはりお金に対して非常にシビアです。中には少しストイックすぎるんじゃないかと思うほど、お金の扱いに慎重になります。

奨学金というのは、言い換えれば自己投資のための借金です。私自身も学生時代に奨学金を借りましたが、それを何年で返さないといけないかとか考えると、借金に対して非常に鋭利な感覚になりますね。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。社会全体として、借金に対する価値観は今後も変わらないと思われますか?

中西教授:いえ、そうとは限らないと思います。借金を「絶対にしてはいけない」とは私は考えていません。ただ、借金には高いコストが伴いますので、極力しない方が望ましいとは考えています。

たとえば、奨学金のように必要性があって借りる場合でも、「そのあとどう行動するか」が非常に重要です。

「ご利用は計画的に」という言葉、よく耳にしますよね。でも、実際に「計画的に」とは何を指すのか、深く考える機会は少ないと思います。

借金とは、将来の消費を前倒しして使うことです。つまり、将来どれだけの収入(キャッシュフロー)を得られるか、それを見通して初めて「計画的な利用」と言えるのです。

たとえば、「自分は毎月20万円稼げるのか?30万円稼げるのか?」という現実的な収入の見込みを持てているかどうかが、ローンを組んでよいかの判断基準になります。

極端な話、将来的な収入がまったく見込めない人は、借金をすべきではありません。

では、「もう食べていけない」というような切実な状況に陥ったら、どうすればよいか。そういったときは、生活保護など社会保障制度を利用するのが正しい選択です。

「借金してでも耐えよう」ではなく、社会が用意した制度を活用することは決して悪いことではありません。それもきちんと学生には伝えています。

また、最近の若者の消費傾向として気になるのが、自動車ローンを組んで新車を購入した直後に、またすぐ別の新車に買い替えるというようなケースです。こういった行動は、自分のキャッシュフローと本当に釣り合っているのか、よく考えなければなりません。

借金も「目的」を持って使えば武器になる─“構造の理解”が前提

カードローンの窓口合同会社 編集部:「借金してでも自己投資すべきだ」という意見もあります。先ほどの奨学金の話にも関連しますが、これについてはどうお考えですか?

中西教授:これは難しい問題ですね。現実として、お金がなければ教育を受ける機会そのものが制限されてしまう。これは非常に残念なことです。

たしかに、「自己投資にお金を使うべきか、それとも運用に回すべきか」といった議論はよくあります。でも私は、若い時点では自己投資を優先すべきだと考えています。貯蓄や投資にまわす前に、まずは自分の可能性を広げるための経験や学びに使うべきです。

たとえば、奨学金だけでなく、学生のうちに留学を経験するといったことも大切です。社会に出た後の経験格差を埋めるためにも、早いうちに「先に投資して、広く見聞を広げること」は重要です。こうした経験は、単なる支出ではなく、将来への投資として十分に価値があると思います。

とはいえ、「借金してでも自己投資をするべきか」と問われたら、それは慎重に判断すべきだと思います。

というのも、借金には当然、返済義務と金利というコストがかかります。ですから、自己投資にかけたお金が、将来的に十分なキャッシュフローとして返ってくるのか。それが見込めない状態で借金をしても、かえって経済的に厳しい立場に陥ることになります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。中西様は以前、「投資はアートだ」と表現されていました。では、借金についても、たとえば自己実現や社会貢献といった目的のために活用することは可能だとお考えでしょうか?

中西教授:はい、借金というのは英語で “debt(デット)” と言いますが、音が“dead (デッド)”死んでいるに似ていますよね。この言葉には単なる「お金を借りる」という意味以上に、心理的な後ろめたさやネガティブな響きがあります。

私自身、銀行や証券会社での勤務経験がありますが、保険や借金といった金融商品は、どうしても否定的に受け取られがちです。特に日本では、「借金=悪」といった感覚が根強くあります。

ただし、財務の視点から見れば、借金は必ずしも悪ではありません。たとえば、借入金に対して年1%の利息を支払っても、その資金で年10%の営業利益率やROE(自己資本利益率)を生み出せるなら、それは明らかに合理的な投資判断です。

問題は、その「借金による資金調達と投資の構造」を、日本では理屈としては理解していても、感情としては腑に落ちていない人が多いという点です。だからこそ、借金には「なんとなく悪いことをしているような気がする」といった心理的な壁が残っているんですね。

ですから、借金を自己実現や社会貢献のために活用したいと考えるなら、まず大前提として、その借金によって「どんな価値を生み出せるのか」を具体的に考え、その構造を理解することが不可欠です。

カードローンの窓口合同会社 編集部:お金に対する考え方で最も重要なこととは、やはり「返せるかどうか」、さらに言えば「そのお金を使ってさらに価値を生み出せるかどうか」ということでしょうか?

中西教授:そうですね。やはりお金は、ただ貯め込むだけでなく、いかに有効に使うかが大切だと思います。単に「手元に残す」ことが目的になってしまうと、意味が薄れてしまいますから。

重要なのは、自分の将来にとって何が必要で、何に価値を置いてそのお金を使うのか、優先順位を明確にすることです。

たとえば、自動車や住宅、保険などは単なる消費ではなく、自分のライフスタイルや価値観を反映した選択です。そうした意味で、自分の人生に本当に必要だと思えるものに対しては、借金をしてでも活用していいと思います。

自分の考えや思考を活かしてお金を運用し、その結果が実現できたときに「やっぱり正しかったんだ」と感じられることが大切です。投資や貯蓄が単にお金を増やすことだけにとどまるのではなく、例えば家族の幸福のために保険を持つなど、人生の目的に結びついていることが重要だと思います。

将来に備えてお金を運用したり貯めたりするのは良いことですが、それ自体が目的になってしまうのは望ましくありません。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。お金をただ貯めるだけでなく、自分の価値観や人生設計に基づいて有効に活用することの大切さを改めて実感しました。

最後に、これから「借りる」「貯める」「投資する」といった様々なお金に関する選択肢に向き合う若者に向けて、メッセージをお願いします。

中西教授:私も学生の頃に奨学金を500万円ほど借りていましたが、借金はできるだけ前倒しで返済するのがいいと思います。これは単に「利息の有無」だけの話ではなく、支払い期間が短くなればなるほど、結果的に支払う総額も抑えられるからです。

ただし、住宅ローンのように、前倒しで返済すること自体に手数料がかかるケースもあります。そうした仕組みを知らずにいると、損をすることもあるので、事前に理解しておくことが大切です。

たとえば、リボ払いのような仕組みに気づかずに長期間返済し続けてしまうと、利息が膨らんでしまうことがあります。ですから、可能であれば一括で、あるいは早め早めに返済するほうが、経済的にも精神的にも負担が少なくて済みます。

お金を借りるということは、それだけでコストが発生しているという意識を持つことが重要です。そのコストが自分にとって本当に見合っているかをよく考えた上で、借りるかどうかを判断してほしいですね。

中西教授の動画はこちら

取材・記事執筆:カードローンの窓口合同会社 編集部
取材日:2025年5月19日

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