岐阜医療科学大学 篠原範充 教授〈”見つける”から”予測する”へ!乳がん検診×AIの最前線〉

岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科 篠原範充教授に独占インタビュー

近年、医療現場でのAI活用が急速に進む中、乳がん検診の分野でもその技術革新が注目を集めています。これまでの「見逃さない」ための検診から、「見つけに行く」検診へ、そして「予測する」検診へと進化が期待されています。

そこで今回、岐阜医療科学大学の篠原範充教授に、乳がん検診とAIの関係性やその最前線について独自取材を通じてお話を伺いました。

検査の質と効率をどう高めるのか、AIは本当に「第二の目」として信頼できるのか——その可能性と現実に迫ります。

インタビュイーの紹介
岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科 篠原範充教授

岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科
篠原範充(シノハラ ノリミツ) 教授

藤田保健衛生大学衛生学部を卒業。
岐阜大学大学院工学研究科電子情報システム工学専攻にて博士(工学)を取得。
2005年岐阜大学産官学融合センター講師、2006年岐阜医療科学大学保健科学部にて講師、
2016年より同大学准教授、2020年より現職。

〈研究分野〉
知能情報学・放射線化学・外科学一般・医用システム

〈著書・論文〉
「マンモグラフィで用いる画質指標」(2025年)
「ヒストグラム解析の基礎と役割」(2025年)
「Study of photon-counting images compared with energy-integrated images for mammography」(2024年)
「乳がん診療に活かす やさしいAI入門」(2023年)

目次

AIで乳がん検診はどう変わる?今何ができているのか

カードローンの窓口合同会社 編集部:篠原様は現在、AIを活用した乳がん検診について研究されていると伺いました。研究内容について簡単に教えていただけますか?

篠原教授:現在、私はAIを用いた乳がんの早期発見や、マンモグラフィー画像の撮影精度に関する評価研究などを行っています。

他にも、マンモグラフィーの品質管理、被ばく低減のための検出器の改良など、検査から診断まで一貫して関与する研究も進めています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。乳がんに関する様々な研究を幅広く手掛けていらっしゃるのですね。医療AIというと「AI-CAD」といった単語も耳にしますが、これはどういった技術なのでしょうか?

篠原教授:「AI-CAD(コンピュータ支援診断)」は、AIが医療画像を解析し、病変を検出したり診断を補助したりするシステムのことです。

病変とは、体の組織や臓器に生じた正常とは異なる変化や異常な状態を指します。

乳がんを例に挙げると、最近はAIがマンモグラフィーの画像を解析し、がんの兆候を見つける作業を自動的に行えるようになりました。

これまで、この作業は医師が目視で行っていたのですが、AIがそのプロセスを補助することで、診断の精度向上が期待されています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:AIが自分で特徴を抽出してくれるなんて、すごい進化ですね。

篠原教授:そうですね。こういったAI-CADに関する研究の中で私が取り組んでいるのは、病変部の検出、腫瘍の良性・悪性の判別、さらに悪性度や緊急性の評価といった領域です。

緊急性の高い症例を優先的に提示できれば、ドクターの負担も軽減されますからね。

カードローンの窓口合同会社 編集部:たしかに、優先順位が分かれば現場の効率も大きく変わりそうです。

篠原教授:その通りです。AIは診断の効率化や精度向上にも寄与しており、ヨーロッパではすでに検証も進んでいます。

現在の乳がん検診では、2人の医師が読影し、2重チェックをしてがんの有無を判断する必要があります。これを1人の医師とAIで代替できれば、大きな進歩に繋がるはずです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。AIが医師のパートナーとして機能するイメージですね。

篠原教授:そうですね。単独で判断するのではなく、医師と協働する読影システムとしてAI-CADが位置づけられれば良いと思います。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。続いて、乳がん検診におけるAIの導入にあたって技術的・制度的なハードルがあれば教えていただけますか?

篠原教授:大きく分けると3つのハードルがあるのですが、1番の課題は、データの確保です。

AIは大量のデータを学習することで精度を高めていく仕組みなので、質・量ともに豊富な学習データが欠かせません。

しかし、医療、特に乳がん検診の場合、1万人を検診しても実際に見つかるがんはごく少数です。自動運転や顔認証のように日常的にデータが蓄積される分野と違って、医療分野では思うようにデータを集めるのが難しいという現状があります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:医療だからこその難しさがあるのですね。

篠原教授:はい。さらに、データを集める際には個人情報保護の観点から、患者さんご本人にあらかじめ「研究目的でデータを使うこと」への同意をいただく必要があります。

これを「倫理審査」と呼ぶのですが、説明に10分ほどかかり、それに納得していただけないとデータは研究に使えません。

海外ではこうした手続きに関する法律が整備されている国もありますが、日本では制度の整備がまだ十分とは言えません。そのため、研究や実装が進みにくくなる要因にもなっています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:つまり、1つ目のハードルは「データ」、2つ目は「法律や制度」ということですね。では、3つ目のハードルは何でしょうか?

篠原教授:3つ目は、医療機器の承認制度です。

医療機器というのは、何よりも安定性が重要視されるため、頻繁なアップデートが難しいのです。

例えば、あるバージョンのAIでがんを正確に見つけられていたのに、アップデート後にその精度が落ちてしまった……となれば、患者様にとっても現場にとっても大問題ですよね。

そのため、AIのアルゴリズムを変更する際には、改めて承認を得る必要があります。これには時間も手続きもかかるので、AIの進化スピードに制度が追いついていないのが実情です。

実際、承認手続きを終えた頃には、もっと優れた技術が出てきているということも珍しくありません。それほど、AIの進化は早いのです。

このように、現在の日本の承認制度とAIの特性は、あまり相性が良いとは言えません。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。2つ目と3つ目のハードルについては制度や仕組みの問題も大きそうですが、1つ目のデータに関する課題については、私たち患者側の協力姿勢も大切になってくるのかもしれませんね。

篠原教授:そうですね。皆さんの協力が研究や技術を後押しをして、社会や患者のためになるという前向きな意識が広がれば、障壁も少しずつ解消されるのではないかと考えています。

「痛くない」「怖くない」検診を目指して

カードローンの窓口合同会社 編集部:乳がん検診といえば、「マンモグラフィーは痛い」といった声をよく耳にします。こうした検診時の痛みは、AIの進化によって解消されていくのでしょうか?

篠原教授:これはなかなか難しい問題です。

現在、乳がんを高い精度で見つけられて、かつ痛みが少ない検査法としてはMRIがあります。

ただ、ここで大きな課題になるのが費用です。日本では、国や自治体が費用の一部を補助する「対策型検診」が主流となっています。これは、できるだけ多くの人に検診を受けてもらうための仕組みです。

こうした集団検診では、費用を抑えつつ、一定の精度が担保できる検査方法が求められています。

そう考えると、現時点ではマンモグラフィーが最も現実的な選択肢ということになります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。検査方法自体を変えるのは費用や実施環境の制約が大きく、すぐには難しいということですね。

篠原教授:そうですね。ただし、すべての地域で同じ検査環境が整っているわけではありません。

例えば、自費での検診が前提となるケースもあり、その場合は超音波(エコー)検査を選ぶ方も多くいます。 また、近年では「ブレストトモシンセシス」という3Dでマンモグラフィーを撮る新しい技術も出てきています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:3Dマンモグラフィーは、どういった点が従来と異なるのでしょうか?

篠原教授:従来のマンモグラフィーでは、乳腺の中でがんの病変と正常な組織が重なって写ることが多く、画像が見づらくなるという課題がありました。

それに対して、3Dマンモグラフィーでは乳房をスライス状に撮影して、立体的に構造を把握できます。これにより、重なりによる見づらさを大幅に解消できるのです。

また、もう1つ注目されているのが「ドゥイブス」と呼ばれるMRIを用いた撮影法です。非常に精密な情報が得られるのですが、こちらも現状では自費負担が大きく、導入には高いハードルがあります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:どれだけ精度が高くても、やはり費用面での課題がついて回るのですね。

篠原教授:はい。そこで最近注目されているのが、「検診の個別化」や「層別化」といった考え方です。

これは、全員に同じ検査を提供するのではなく、その人のリスクに応じて検診方法を変えるというものです。

日本の検診制度は、これまで「誰でも平等に検診を受けられること」を重視してきました。ただ、その一律的な枠組みだけでは対応しきれないケースも出てきています。

例えば、全員が同じ高さの踏み台に立っても、背の高い人と低い人とでは見える景色が異なりますよね。

そこで、最近では「平等」ではなく「公平」を意識した検診体制の必要性が議論されています。

つまり、リスクが高い人には、それに見合ったより丁寧なサポートを提供する。そういった仕組みづくりが重要になってきているのです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。公平性を重視するなら、よりリスクが高い人に手厚い検査体制を整えるのが理にかなっていますね。

篠原教授:ただし、「リスクが高い」と判断するには根拠が必要になります。

ここで候補になるのが、血液検査や遺伝子検査です。

例えば、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、遺伝的に乳がんのリスクが高いと分かり、予防的に乳房を切除されましたよね。

カードローンの窓口合同会社 編集部:はい、あのニュースはとても話題になりましたよね。ただ、遺伝子によってリスクが分かるのは便利ですが、検査には高額な費用がかかるのではないでしょうか?

篠原教授:おっしゃる通り、遺伝子検査は費用が高いため、全員に実施するのは現実的ではありません。

そこで私たちが取り組んでいるのが、「マンモグラフィーの画像から、将来的な乳がんリスクをAIが予測する」という研究です。

カードローンの窓口合同会社 編集部:画像から未来のリスクまで分かるようになるのですか?

篠原教授:そうです。これまでのAIは「現在がんがあるかどうか」を判断することに主眼が置かれていましたが、今は「将来がんになる可能性」を予測する技術に注目が集まっています。

つまり、“今起きていること”から、“これから起きるかもしれないこと”をAIが先回りして見つけてくれる──そんな仕組みを目指しているのです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:それが実現すれば、検診のあり方も大きく変わりそうですね。

篠原教授:そうですね。さらに今注目されているのが、「画像から遺伝子やタンパク質の情報まで推定する」という分野です。

これは「オミックス」と呼ばれる領域で、少し専門的になりますが、画像と遺伝子データをAIで結びつけて解析する試みが進んでいます。

カードローンの窓口合同会社 編集部:画像の中に、そうした情報が含まれているわけではないのですよね?

篠原教授:その通りです。実際には画像に遺伝情報が書いてあるわけではありません。

ただ、AIが膨大なデータを学習することで、「こういう画像の特徴を持つ人は、この遺伝子変異を持っている可能性がある」といった相関関係を推定できるかもしれないという話です。

それが可能になれば、マンモグラフィー画像を見るだけで、将来のがんリスクや体質的な傾向まで分かるようになるかもしれません。

カードローンの窓口合同会社 編集部:痛みを伴う検査が不要になるかもしれないというのは、大きな前進ですね。

篠原教授:実際、がんの疑いがある場合には、太い針で組織を採取して調べる必要があります。この処置は痛みや不安を伴いますが、将来的にはAIがその必要性を予測し、不要な検査を減らすことも可能になるかもしれません。

つまり、「痛みをなくす」ではなく、「無駄な痛みを減らす」という方向性が現実的だと思います。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。必要なところにだけ集中して検査できれば、負担も減りますね。

篠原教授:そうですね。また、検診時の痛み軽減についても、AIの力が期待されています。

現在のマンモグラフィーでは、乳房をおよそ10kgの力で圧迫して撮影します。これは画像の鮮明さを保つために必要な処置なのですが、人によっては強い痛みを感じる場合があります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:10kgの圧迫というのは、聞いただけで痛そうですね……。

篠原教授:そうですよね。しかも、痛みの感じ方は人によって異なります。

ある人にとっては耐えられる圧でも、別の人には非常に辛いということもある。そうした違いを、AIが画像を見ながら「この人にはこのくらいの圧が適切だ」と判断してくれるようになるかもしれません。

さらに言えば、圧迫を弱めれば当然画像は不鮮明になります。その際に生じるノイズを、AIの画像処理で除去するというアプローチもあります。

私の研究室でも一部取り組んでいるテーマですが、「弱い圧でも、AIが補ってくれる」という世界が来ることを期待したいです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:撮影条件を少し緩くしても、AIが画質をカバーしてくれるのは嬉しいですね。

篠原教授:ただ、ここにも難しい判断がありまして、「痛みを我慢しても正確な画像を撮るべきか」「楽な検査で画像の質が多少落ちても良いのか」、最終的にはそういった選択が問われる場面も出てくるでしょう。

現実には、多くの方が「多少痛くても、精度の高い検査を受けたい」と考える傾向にあります。

ですから今後は、放射線技師などの専門職がこれまで通り精度の高い撮影を行い、その上でAIが画像処理や補正などを担うという、「人とAIの協働」による検診体制が理想だと考えています。

人間の技術とAIの技術、それぞれの強みを活かしていくことが、検診の質を高める1つの鍵になるのではないでしょうか。

カードローンの窓口合同会社 編集部:やはり、人とAIが協力し合う形が、一番現実的かつ効果的なのですね。

ここまでのお話で、AIは診断精度だけでなく、検診の「受けやすさ」にも影響を与えていることが分かってきました。では、検診に対して不安や抵抗を感じる方にとっても、AIの導入は心理的な負担を軽くする助けになるのでしょうか?

篠原教授:これもまた難しい問題ですね。

乳がん検診は「痛いのではないか」という身体的な不安に加えて、「もし病気が見つかったらどうしよう」という心理的な不安も、検診を避ける理由として大きいと思います。

そこでAIによる将来リスクの予測が役立つ可能性があるのです。

単に現在の画像を見るだけでなく、年齢や体質といった情報も含めてAIが分析することで、「あなたの乳がん発症リスクは〇%です」と具体的な数字で示せるようになります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:リスクが数字で見えるようになると、自分の健康状態を冷静に理解できそうですね。

篠原教授:そうですね。例えば「あなたのリスクは20%です」と示されたとき、「必要以上に不安にならずに済む」「逆に油断せず注意しよう」といった、バランスの取れた行動に繋がることが期待できます。

ちょうど、天気予報で「降水確率20%」と聞いて、傘を持つかどうかを判断する感覚に似ているかもしれません。

さらに数値化されたリスクに基づいて、その人に合った検診方法や受診のタイミングを個別に提案することも可能になります。

現在、日本では「2年に1回の検診」が一般的に推奨されていますが、リスクが高い人には「来年も受診をおすすめします」と伝えたり、「途中で超音波検査を加えましょう」といった対応ができたりするようになるわけです。

こうして検診内容をその人に合わせて最適化できれば、「これで自分は大丈夫」と納得感を持って受けてもらえるようになり、不安の軽減にも繋がるのではないでしょうか。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。ここまでお話しいただいた「AIによる将来リスクの予測」を実現させるためには、何が大切になってくるのでしょうか?

篠原教授:リスク予測を行う上で非常に重要なのが、「乳房の構造の違い」です。

乳腺の密度は人によっても異なりますし、人種によっても違いがあります。例えばアメリカでは、乳腺のタイプに応じた分類が存在し、検診結果の通知時にその分類を明記することが法律で義務づけられているほどです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:乳腺のタイプは、画像診断にどれほどの影響を与えるのですか?

篠原教授:かなり大きな影響があります。

乳房の中には、母乳を作る小葉と、それを乳頭まで運ぶ乳管が集まってできており、それは「腺葉」と呼ばれます。腺葉はそれぞれ独立しており、10〜20個ほど存在し、乳腺と呼ばれます。この乳腺は個人によって量が違っていて、量が多い人はマンモグラフィーでは白く写る部分が増えるのです。

ところが、乳がんも同じように白く写るため、白い背景に白い病変が重なってしまうと、見つけにくくなってしまいます。

そこで私は、AIが画像を解析して乳腺のタイプを自動で分類し、「この方には超音波検査を併用するのが有効です」といった提案を医師に提示する仕組みの開発を進めています。

検診の間隔や方法をリスクに応じて提案できるようになれば、受診者一人ひとりに合った最適な検診を提供できるはずです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:まさに「その人のための検診」ですね。

篠原教授:はい。乳腺の構造を踏まえた画像解析や、リスクに応じたフォローアップ検診、そして最適な検診時期の提案は、検診・治療において非常に重要です。

これらを総合的に判断するAIの活用によって、検診を受ける方の不安を少しでも軽減しながら、より質の高い検診を提供していけると考えています。

「AIは医師の味方?」これからの医療と人の役割

カードローンの窓口合同会社 編集部:ここまで様々なお話を伺ってきましたが、そもそも医療AIが目指すべき「未来のあるべき姿」とは、どのようなものなのでしょうか?

篠原教授:まず前提として、AIは医師に「信頼される存在」でなければ意味がありません。

どれだけ正確な結果を出せたとしても、それだけでは不十分です。医師の判断を支えたり、迷ったときに再確認を促したりできる、いわば判断のパートナーのような存在である必要があります。

例えば、雪が降る日の運転を想像してみてください。普段は自動運転に任せていても、路面が滑りやすい日は少し不安になりますよね。

そんな時、自分の運転スキルとAIの性能の両方を理解してくれる第三者がいて、「今日はAIに任せた方が良いよ」「今日は自分で運転した方が安全だよ」と助言してくれたら、安心して判断ができます。

実は、こうした関係性は医療にも通じるのです。今の現場で本当に求められているのは、「医師が信頼できる、判断補助としてのAI」です。

最近では「信頼較正AI」という考え方も注目されています。

これは、診断補助するAIと別に診断補助AIと医師の得意・不得意を把握している「判断補助AI」がいて、「これは診断補助AIが得意だから任せて」「これは苦手だから医師がよく確認して」といった提案をするようなものです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。医師とAIの関係も、あくまで支え合う関係であるべきなのですね。

篠原教授:その通りです。そして何より大切なのは、AIが「人の心に入り込んで、そっと背中を押してくれるような存在であること」です。

カードローンの窓口合同会社 編集部:たしかに、正しい情報をどう伝えるかで、受け手の受け止め方も大きく変わりますよね。

篠原教授:はい。バイキングで最初にサラダが目の前に並んでいたら、つい手を伸ばしてしまう……そんな自然な心理の流れがありますよね。

AIも同じように、無理やりではなく、自然な形で人の判断をそっと後押しできるようになることが、真に信頼されるAIに繋がると考えています。

そしてもう1つ、医療AIが果たすべき重要な役割は、「医療現場のワークフローを改善すること」です。

実は、医療の現場では診断や手術そのもの以上に、報告書や紹介状など「文書業務」が多いのです。手術をして、その結果を文書にして、紹介元に返送して……という作業が大きな負担になっています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:そこにAIが加われば、医療従事者は本来の専門業務に集中できるというわけですね。

篠原教授:まさにその通りです。実際、救急医療の現場ではすでにAIの導入が進んでいます。

アメリカではAIによる画像診断に保険点数が付与される事例も出てきていて、出血の有無をいち早く検出し、トリアージ(緊急度に応じた優先順位づけ)に活かすといった使い方が非常に有効とされています。

一方で、乳がん検診のような領域では「AIに診てもらうのは不安」と感じる方も多く、心理的なハードルがあるのが現状です。

例えばオランダの調査では、約7割の回答者が「AIに診断は任せたくない」と答えたというデータもあります。

カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。技術の進化とは別に、患者側の気持ちとしては、まだ抵抗感があるのですね。

篠原教授:そうですね。ただ、少し視点を変えると希望も見えてきます。

今は「デジタルメディスン」といって、禁煙支援のために医師がスマホアプリを処方する時代です。以前はニコチンパッチや内服薬が主流でしたが、今ではアプリが「吸わないようにしましょう」と優しく声をかけてくれるようになりました。

さらに興味深いのは、精神科のカウンセリングに関する研究で、「医師よりもAIの方が話しやすい」と答えた人が7割近くいたという報告があることです。

AIは相手の話をさえぎらず、丁寧に説明してくれます。そして、分からないことは「ここは専門外なので、医師に聞いてください」と正直に伝えます。そうした誠実な姿勢が、かえって信頼を生んでいるのかもしれません。

カードローンの窓口合同会社 編集部:お話を聞いていると、AIには主導的な役割よりも、やはり支える役割が期待されているように感じますね。

篠原教授:おっしゃる通りです。少し話は変わりますが、ある研究で対戦型のオンラインゲームにAIを1人だけ混ぜた4対4の試合を行ったものがあります。

この時、AIは積極的に指示を出すわけではなく、人間プレイヤーの動きを見ながら自然とサポート役に回る傾向があったのです。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ゲームでもAIは裏方に徹するのですね!

篠原教授:はい。AIは「人間の意図を尊重する」行動を取る傾向があり、これは医療においても非常に重要な視点です。

医療AIが本当に実現すべき姿とは、「勝つため」ではなく、「人が安心して選択できるよう支える存在」であることです。

つまり、AIは主役ではなく、医療従事者や患者のそばで静かに支えてくれる、そんな存在であることが理想だと私は考えています。

カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。最後に、乳がん検診や医療AIについて不安を感じている方へ、メッセージをいただけますか?

篠原教授:私からお伝えしたいのは、「知ることが、自分自身と大切な人を守る道に繋がる」ということです。

「医療」や「AI」と聞くと、どうしても難しそうとか、少し怖いと感じてしまう方も多いかもしれません。特に乳がん検診に関しては、「痛いかもしれない」「もし何か見つかったら怖い」といった気持ちが先に立ち、足が遠のくこともあると思います。

しかし、検診を受けると病変の早期発見に繋がるだけでなく、自分の健康を見つめ直すきっかけにもなりますし、結果的には家族の未来を守ることにも繋がるのです。

今はAIの進化によって、検査の見逃しリスクも減り、より正確で、より安心して検診を受けられる時代になってきています。

AIはあくまで、医師や技師といった医療従事者と協力しながら、より良い医療を届けるための相棒です。人とAIが力を合わせることで、より信頼できる医療が実現していくと信じています。

まずはAIという言葉に構えすぎず、気になることや不安なことがあれば、ぜひ遠慮なく医療スタッフに相談してみてください。

その対話の積み重ねが、医療の質をより高めていくはずです。

取材・記事執筆:カードローンの窓口合同会社 編集部
取材日:2025年5月19日

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