近年、ビットコインなどの暗号資産を運用する人が増加している中、サイバー攻撃や詐欺行為のリスクを減らせる「ブロックチェーン」という技術に注目が集まっていることをご存知でしょうか。
そこで今回、広島経済大学の高石哲弥教授に、ブロックチェーンの真価とは何か、技術が切り拓く次世代インフラの展望について独自取材を通じてお話を伺いました。
ブロックチェーン技術はどのように進化していくのか、その過程にある壁とは一体何かを高石教授のお話から迫っていきましょう。
広島経済大学 教養教育部
高石哲弥(タカイシ テツヤ) 教授
広島大学理学部物理学科を卒業後、広島大学大学院理学研究科物理学専攻にて博士(理学)を取得。
1995年よりハイデルベルグ大学理論物理学研究所DFG研究員、1996年よりチューリッヒ工科大学研究員を務める。
その後、1997年より広島経済大学講師、その後2008年より同大学にて現職に至る。
〈主な研究テーマ〉
計算物理・経済時系列解析
〈著書・論文〉
「Properties of VaR and CVaR Risk Measures in High-Frequency Domain: Long–Short Asymmetry and Significance of the Power-Law Tail」Journal of Risk and Financial Management 16(9) 391-391(2023年)
「Time Evolution of Market Efficiency and Multifractality of the Japanese Stock Market」Journal of Risk and Financial Management 15(1) 31-31 (2022年)
「Time-varying properties of asymmetric volatility and multifractality in Bitcoin」PLOS ONE 16(2) e0246209(2021年)
ブロックチェーン技術の基本とその特性とは?
カードローンの窓口合同会社 編集部: 最初に、ブロックチェーンが有名になったきっかけを教えていただけますか?
高石教授: もともと、ブロックチェーンが有名になったきっかけはビットコインの登場だと思います。
ブロックチェーンを使うことによって、システムの改ざんを防いだり、非中央集権的なシステムで動かせたりすることから、ビットコインのシステムは有名になりました。
カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。では、ブロックチェーンの仕組みを教えていただけますか?
高石教授:ビットコインのシステムは2008年にサトシ・ナカモトという人によって提案されました。そして、2009年からビットコインのシステムは稼働し始めました。
このビットコインのシステムの中心部分にあるのが、ブロックチェーンです。
ブロックチェーンとは、様々なデータが改ざんされずに保存できる技術のことで、取引データをブロック単位で分散台帳に鎖(チェーン)のように繋げながら記載してゆきます。
カードローンの窓口合同会社 編集部:その分散台帳とはどういったシステムなのですか?
高石教授:分散台帳は、ネットワークにつながったコンピューターにデータが分散されて保存されるというシステムのことです。その分散台帳を実現する1つとしてブロックチェーン技術があります。
カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど、データがネットワーク上に分散されて保存されるということですね。では、ブロックチェーンの特徴としては他にどのような点が挙げられるのでしょうか?
高石教授:ブロックチェーンの特徴の1つは、障害に強いということです。ネットワークの一部がダウンしてそこにつながっているデータにアクセスできなくても、他のところにデータが保存されているので、そのデータを使ってシステムを稼働し続けることができます。
カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。一部がダウンしても別のデータにアクセスできるのは安心ですね。
先ほど「ブロックチェーンは非中央集権的なシステム」とお話されていましたが、そもそも中央集権的なシステムとは一体何なのでしょうか?
高石教授:中央集権的なシステムとは、中央管理者がデータを一元的に管理するシステムのことです。
この場合、データを管理するにはコストがかかります。しかし、ビットコインで採用されている非中央集権システムでは、管理するサーバーのようなものがないので、一般的には低コストでシステムを構築することができます。
ブロックチェーンは取引データをブロックという塊にしてチェーンのようにつなげていくわけですが、取引データを勝手に書かれたり、途中で改ざんされてしまわないようにする必要があります。
そのため、ビットコインでは「マイニング」という方法によってデータが改ざんされないようにしているのです。
カードローンの窓口合同会社 編集部:その「マイニング」とは具体的にはどういったものなのですか?
高石教授:マイニングとは、一定値以下のハッシュ関数値を計算して見つけ出し、データをブロックチェーンのブロックに保存する作業のことを指します。
ハッシュ関数は、前のブロックのハッシュと新しいデータ、ナンスによって計算されます。このうち、ナンスと呼ばれるものの数値を変えて計算を行い、決められた一定値以下のハッシュ値が求められれば成功となるのです。一般に、この作業を実行するのは計算量が多く、大きな計算リソースが必要になります。
このマイニングに参加している人は「マイナー(miner)」と呼ばれています。ブロックチェーンシステムは、彼らの計算作業によって維持されているのです。
このマイニングシステムによってブロックチェーンを構築するアルゴリズムをPoW(プルーフ・オブ・ワーク)と言います。
カードローンの窓口合同会社 編集部:非中央集権的なシステムだからこそ、マイニングによって過去データの改ざんを防ぐ必要があるのですね。お話を聞いていると、マイニングを成功させるのは簡単ではなさそうに思えます。
高石教授:その通りです。ハッシュ値の計算を成功させるためには、コンピューターの膨大な計算力が必要になってくるので、計算を成功させるのはなかなか難しいとされています。
このコンピュータの膨大な計算力を必要とすることが改ざんをしにくくしています。ブロックチェーンは繋がっているので、もし一部のデータが改ざんされたとしたら計算が1からやり直しとなりますが、そのような計算を実行するのは難しく、ブロックチェーンが改ざんされにくい理由となっています。
なお、いち早くハッシュ値の算出に成功した場合には、報酬として暗号資産がもらえます。マイナーが多くいるのは、こういった報酬をもらうためでもあるのです。
カードローンの窓口合同会社 編集部:「計算を成功させるのはなかなか難しい」ということは、これから計算機能が発達すればもっとさらに普及していくのでしょうか?
高石教授:そうですね。ただし、たくさんの人がマイニングを行うと、非常に電力がかかって環境に負荷をかけることになります。
そのため、現在はブロックを繋げる方式として、PoWを使わない方法も開発されています。
具体的には、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)という、暗号資産の保有量が多い、もしくは暗号資産を保持する期間が長いほどブロックを繋げる役割を担う仕組みがあります。PoWと同様、ブロックを繋げれば報酬(暗号資産)がもらえるのです。
このような方法であれば、複雑な計算が必要なく、計算機の電力消費を抑えることができます。以前、PoWを採用していた暗号資産のイーサリアムは、現在ではPoSに移行しています。
業界変革とブロックチェーン技術導入の壁
カードローンの窓口合同会社 編集部:ブロックチェーン技術は、ビットコインなどの暗号資産を中心に活用されていると思うのですが、他の分野でも導入が進んでいると聞いています。具体的にどのような業界で活用されているのか教えていただきたいです。
高石教授:ブロックチェーンの「改ざんされにくい」という性質は多くのデータに活用することができます。
そのため、ブロックチェーンはすでに多くの場所で導入されています。分野で言えば、金融や不動産、保険などの契約でも活用されています。
カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。契約という分野でブロックチェーンが活用されていることは知らなかったので驚きました。
高石教授:契約を実行するプログラムのことを「スマートコントラクト」と言います。
このスマートコントラクトを使うと、自動でプログラムを実行させることができるので、それによって様々な契約を実行させることができるのです。
これを活用すれば、ゲームなどのアプリケーションも作ることもできます。このように、ブロックチェーンはかなり身近な存在となりつつあるのです。
カードローンの窓口合同会社 編集部:一消費者としてはブロックチェーンが身近にあるように思ったことがなかったのですが、アプリケーションとなると一気に身近な存在に感じますね。
高石教授:スマホのアプリでブロックチェーン技術を利用したゲームもあるようです。
また、先ほどもお話したようにブロックチェーン技術はデータが改ざんされにくい性質があるため、物流の面でも活躍しています。
商品がどのような場所を通ってやってきたのか、産地はどこかという証明ができるなど、リスク管理の面でブロックチェーンが利用されることもあるのです。
カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。先ほど、電力のコストなどのお話もありましたが、企業がブロックチェーンを導入する際の課題としてはどのような点が挙げられるのでしょうか?
高石教授:その企業で何をしたいかによって課題はそれぞれだと思います。
例えば製造業であれば商品の管理、物流関係の企業であれば「商品が今どこにあるか」を管理するためにブロックチェーンを活用することができます。
また、政府機関や市町村などでブロックチェーン技術を利用すれば、デジタルの証明書などが改ざんされていないということを証明できます。
しかし、そのような証明技術を開発・導入するには、専門のプログラミング技術と多大なコストが必要になります。独自のものを作り上げるのは非常に困難ですから、今後は技術を提供してくれる企業と連携する必要があるでしょう。
ブロックチェーンの進化と企業の差別化戦略
カードローンの窓口合同会社 編集部:今後、ブロックチェーン技術はどのように進化していくと予想されますか?
高石教授:金融から物流など、様々な場面で応用されていくと思います。また、最近ではWEB3.0のような、ブロックチェーン技術を基盤とする分散型ネットワーク環境も注目されています。
Web3.0の前身であるWeb1.0は情報を見るだけのもの、Web2.0はSNSのように双方向で情報を発信・受信できるものでした。
そして、Web3.0は分散型のネットワークという点が特徴です。これまでのSNSはTwitter(現X)のように中央管理者が存在し、その意思に基づいてアカウントが凍結されるなど、利用が制限されることもありました。
分散型ネットワークであれば、中央管理者がいないため、そういった制限が少なくなると考えられます。
カードローンの窓口合同会社 編集部:なるほど。分散型は中央の管理者がいないので、恣意的な制限がされる可能性がなくなるというメリットがあるのですね。
高石教授:そうですね。ただ、分散型にはデメリットもあります。例えば、個人間でのトラブルが発生した場合に、どのように対処するのかというのは大きな課題でしょう。
カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。Web3.0やブロックチェーン技術を活用して他社と差別化を図るために、有効な戦略やアプローチがあれば教えていただけますか?
高石教授:企業がどのような価値を提供したいかによって、戦略は異なると思います。
最近の例としては、日産自動車がブロックチェーン技術を活用した新たなサブスクリプションを提供したことが挙げられるでしょう。
また、Web3.0ゲームというジャンルでは、NFTや暗号資産を取り入れたサービスも存在します。これらは、ブロックチェーン技術を活用して独自の価値を提供しようという試みの一環と言えるでしょう。
カードローンの窓口合同会社 編集部:ゲーム内でNFTや暗号資産を取り入れるとなると、法規制の対応が課題になりそうですね。
高石教授:そうですね。金融庁もゲーム内での暗号資産のやり取りについて、法整備や活用促進のための検討を進めているようです。
また、ソニーグループは独自のブロックチェーンを開発し、エンターテイメント分野での活用を目指しているというニュースもあります。
それぞれの企業がブロックチェーン技術をどのように活用するか、サービス向上の視点で考える必要があると思います。
カードローンの窓口合同会社 編集部:自社サービスの強化として、ブロックチェーン技術を活用するということですね。
高石教授:そうです。ブロックチェーン技術を導入するのは簡単ではありませんが、外部企業との提携を検討するなどして、様々なアイデアを実現していければ良いですね。
カードローンの窓口合同会社 編集部:ありがとうございます。では最後に、高石様が現在されている研究やプロジェクトで注力している部分、また今後の展望について教えていただけますか?
高石教授:私はブロックチェーンそのものの研究は行っていませんが、金融のデータ解析に取り組んでいます。
また、最近はAI技術が社会に急速に浸透しており、近い将来より精度の高いChatGPTのような大規模言語モデルができると言われています。
ChatGPTのような生成AIを活用すれば、企業の生産性向上に役立ちますし、実際に多くの企業が導入を進めています。このような状況の中で、生成AIが作成したデータをブロックチェーンで保証する仕組みも今後注目されるでしょう。
さらに、将来的には生成AIとブロックチェーンを組み合わせた新しい仕組みやサービスが登場する可能性があります。例えば、自動でプログラムを実行するDAO(分散型自立組織)にAIが参加するようなシステムも考えられるかもしれません。
今後は、ブロックチェーンとAIがどのように混じり合い、社会に影響を及ぼすのか注目していきたいです。
取材・記事執筆:カードローンの窓口合同会社 編集部
取材日:2024年11月24日